2007年11月16日

マブイの往還

「マブイの往還」津田睦美展-fue nos peres ニューカレドニアの日系人-を見に行った。
 ニューカレドニア。
 昨年の世界のウチナーンチュ大会に、初めてニューカレドニアから参加者が来沖したという記事が思い出される。しかし私の中の世界地図のその位置はあやふやだ。いったい沖縄とニューカレドニアの間でどのようなマブイの往還があったのだろうか。新しい沖縄に出会えるようなワクワクした気持ちで会場へ足を運んだ。
 会場を訪れると、天井からつるされた巨大なタペストリーに迎えられた。マブイの往還パッチワークのようにいくつも連なった白黒の顔写真。30から50代くらいの男性は、そのほとんどがシャツにネクタイという正装だ。タイトルは「外国人登録証に添付された日本人移民の顔写真を集めたもの」。
 私を見つめるひとつひとつの顔が何かを語りかけてくる。穏やかな笑顔を浮かべる少し年老いた男性は沖縄出身者ではないかと想像しつつ、奥にはどんな写真が展示されているのかと期待が高まる。
 次に展示されていたのはフランスの新聞記事をつなぎ合わせたタペストリーであった。1942年、フランスの新聞に掲載された日本人の没収財産の競売とそれに係る公示の記事。日本語の訳もあった。園芸用品、レストランや商店で使っていた品々、小型船などの商売道具をはじめ花瓶、ベッドやテーブル、オーブン、ミシン、古着など生活品のひとつひとつがいつ、どこで、公開競売されるのかを記している。戦争を境に、彼ら一人ひとりに起きたであろう悲しみを思った。
 この展示会が企画された背景について、展示会の協力機関であるチバウ文化センターの館長、エマニュエル・カザレルが記していた。
 ニューカレドニアの移民の歴史の中、たくさんの移民が先住民の周りに築いていった様々なアイデンティティーによって、現代のニューカレドニアの多様な人口分布が築かれた。その中の日系移民が、戦争を経験したことで途切れてしまった過去の記憶を再構成しようという試みを始めた。そこへ造形作家津田氏が加わり、アートと歴史、口承の記憶と写真ドキュメントを融合させた協働プロジェクトが生まれたのだ。津田氏がプロジェクトをすすめていくにあたって、人々の個人的な経験を聞くことに戸惑いやためらいを覚えたと語ったことに触れ、エマニュエルはそのわけを「問題となる歴史が、まだ実際の体験と感情でできているもの」であり「その歴史を構成しているのは、感情のこもった証言、あるいは愛情やいなくなってしまった大切な人の思い出で持ってかけがえのないものになった日用品などである。」とし、写真が時を越える架け橋となって先祖と現世代の視線をつなぐ対話の場を生み出すと語る。
 私が移民の歴史に触れるたびに感じる何かが少し分かった気がした。過去という言葉は、過ぎ去った時を表すが、歴史は常に今を生み出す始まりである。色々な理由で断絶され、葬り去られようとしても、どこかに必ずその記憶や思いを残している。
ONCのワークショップでは、一人の人に寄り添って考えたり、想像する作業をワークに取り入れることが多い。沖縄移民の学びでも、移民の体験記を読んだ後、自分がその人だったら、その人の家族だったら、と考える時間をもうける。誰かの立場に立つ、ある人に思いをはせるのは難しいことではない。その人の気持ちに完全になることはできなくても、想像することで、その人を取り巻く状況や、風景を思い描く時間を作り、自分だったらどうしたのだろう、その人はどう感じたのだろうと考える。正解や間違いのない思考の時間、私たちは今を作った過去を生きた人と少しだけ時間を共有できる。
 移民たちは、人々が勝手に作り上げた国境や時代という区切り、人種や文化という枠組みを超えて、その人の人生を築く。そのため、時には当たり前の日常を失うこともある。彼らの生き方は、私たちに見えないものを区切っているその線の意味を問う。
 展示場には現在ニューカレドニアに生きる日系人やその家族の写真、収容所に送られた夫と妻の手紙や短いビデオなどが上映されていて、ニューカレドニアと日本を行き来したマブイの存在を語っていた。数は決して多くはないが、一つ一つの展示がこの世界のどこかで生活を営んでいたことが伝わってくる。
 私の地図に加えられたニューカレドニア。私たちのマブイが自由に行き来できる、そんな時代を彼らの歴史のうえに築いていこうと思った。(大城み)


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Posted by ONC at 22:45│Comments(0)その他
 
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